「子どもだったころのレオン・ウェルトに」の序文から始まる有名な物語、星の王子さま。私の大好きな本ですが、これまた大好きな森山開次さんが舞台化されたとのことで観てきました。
公式サイトはこちら→星の王子さま ーサン=テグジュペリからの手紙ー|KAAT 神奈川芸術劇場
原作がある作品についていつも「予習しておけばよかった」と思うので、今回はばっちり読み返してから行ってきました。まずもって読み返す機会をくれただけで満足ってくらい名作!電車の中で泣きそうになりました。本を一冊だけ買うとしたらこれですね。
と原作の良さを再確認してハードルがかなり上がったところで劇場へ。そもそもですが、「星の王子さま」は物語全体を通して届くメッセージだけでなく登場人物が口にする言葉もとても深みがあります。「言葉」の持つ力を身体表現、とりわけ「ダンス」としてどれだけ届けてくれるか期待!
「コンスエロ」の存在
キャスト一覧をよく見ないまま鑑賞。歌の坂本美雨さんがわりとずっと舞台上にいて何だろう?と思っていたのですが、後日よく見てみたら「コンスエロ」であったことが判明。サン=テグジュペリの奥さんだった女性の名前です。

「星の王子さま」本編には出てこない人ですね。創作の過程でサン=テグジュペリの生涯などにも思いを馳せて、コンスエロを出すことにしたのでしょうか。坂本さんがコンスエロだと知らずに観たので、最初のシーンやその後のたたずまいから「宇宙」とか「全なるもの」みたいな存在なのかな?と私は受け取っていました。
コンスエロは星の王子さまに出てくる「バラ」のモデルになったと言われている人なので「美人でプライドが高くわがままで傷つきやすい存在」という印象がありますが、舞台上では衣装や坂本さん自身の雰囲気のせいか「母」感が強かったです。安定感があって、あたたかさ、やさしさみたいな面がよく見えて。「バラ」として踊っていた酒井はなさんはツンとした表現が強かったので、あわせて一つの人間になるということだったのかしら。バラも本当は優しい人だって王子さまは言っていますから。
個人的に「あたたかくてさびしい」というのが創作物についての一番の称賛なのですが、コンスエロの見守っている感じ、温かさが大きすぎて、さびしさがもうちょっと欲しかったな…と。好みの問題かと思いますが、原作の「孤独の美しさ」「王子さまと二人っきりであるがゆえのやりとりの尊さ」が薄れた気がします。しかしコンスエロの存在によって全編通してバラの香りに守られているような感覚は確かにありました。歌のキャストということでストーリーテラーっぽさも感じます。
登場人物たち
「星の王子さま」といえば、おかしな大人たちや、バラやキツネなどとのエピソードが印象的です。
登場人物についてまず言えるのが、衣裳(と小道具)が本当に素晴らしい!!!ということ。公式サイトやチラシでは主要なキャスト(飛行士、バラなど)しか写真がありませんが、序盤に出てくる「王様」「地理学者」「実業家」などの一つ一つも必見です。「その衣裳でなければ成り立たない」動きが出てきて、ダンスが先なのか衣裳が先なのかわからないけど、完成度の高い総合芸術に恐れ入りました。呑み助のお腹にはバランスボールが入っていましたよ。個人的には「実業家」の衣裳がすごく効果的で好きでした。
基本的には原作に忠実に、ストーリーを追う感じ。出会う人全員に言及していて時間は足りるのか?と心配しましたが、その分バラやキツネとの時間が短く感じました。バラとキツネはもっとたくさん観たかった!旅立ちの時にバラにちゃんと別れを告げたんだろうか?とか、なぜバラが飛行士とパドドゥを踊るの?(コンスエロとサン=テグジュペリだから?)とか、少しわだかまりが残ってしまいました。私が消化できなかっただけかな?飛行士の精神状態や王子さまとの絆もあまり見えなかったのは残念。
薔薇は絶対ポアントで!と思ってたけど、やはり酒井はなさん。バレリーナじゃないとできない表現で「きれいでわがまま」というのがよく伝わってきました。でも「ちっぽけなトゲで強がっている」のはあまり感じず。
島地保武さんのキツネが思ったよりいぶし銀!私のイメージではキツネって結構こどもみたいで中性的というか、女性が踊るんだと思っていました。しかし踊りを見ているうちに「このキツネが最高…!」と思うように!渋いたたずまいなんだけどコンコンポーズが入ったりする可愛さもあり、しっぽのモフモフを振りながら揺るがない存在感で去っていくところも素敵です。演出としては別れがちょっとあっさりしすぎな気もしましたが。
原作では飛行士(ぼく)の語り口で王子さまの過去も語られるので、飛行士が出てこないシーンでも違和感なく飛行士の存在を感じるのですが、ダンスになると難しいですね。飛行士ちょいちょい出てきすぎ!と思ってしまったけど、一方であれくらい出ないと飛行士が語る作品じゃなくなってしまうだろうし。井戸の水を王子さまが自分ですくって飲んでいたのも不思議な気がしました。
王子さま役のアオイヤマダさんは細部までずっと王子さまでした。素晴らしい!ちょっと手をあげる仕草だけでも「星の王子さまだわ」と思います。難しいキャラクターと思うけど、最後までブレずに王子さまでした。
もちろん開次さんの蛇は安定の素晴らしさ!

印象に残ったシーン
コンテンポラリーダンスの舞台(≒難解な印象がある)ではあるのですが、「何のシーンだ?」と迷子になったのは一つだけでした。それが「バオバブが生えてくると大変だよ」のシーン。バオバブのくだりが続いていると途中までわからなかったのです。バオバブが大変恐ろしいものとして描写されていて、やりすぎ?とも思ったけど、子どもって怖いものを深刻に考えますもんね。その「王子さまの目で見るバオバブ」という感じがすごくよく出ていました。
バオバブも地理学者の頭も(他にもたくさん)、薄い布で風船をくるんだもの?が使われていたのが大変印象的でした。使うものを揃えることで統一感が出て、舞台が洗練されますね。
羊の箱のくだりは自由な発想で序盤にふさわしいポップさでよかったです。箱が三つ出てきたり箱に王子さまも入ったり。
ラストシーンは蛇に噛まれて王子さまが倒れて終わったのかと思ったけど、その後バラと飛行士が出てきましたね。なぜこの二人?と思ったけど、バラがコンスエロ、飛行士がサン=テグジュペリとして考えてみると納得かも。ぐるぐるとまわり続ける二人が手をとることがないところがさびしい。
音楽
生演奏の音楽も手放しで素晴らしかったです。一つ一つの曲が最高!好みど真ん中でした。歌(というか声)の使い方も良かったと思います。
客入れ(開演前)の音楽も、星がぱらぱら光っているみたいな音で砂漠の夜を連想しました。サウンドトラックは買うかちょっと悩んだけど、終演後に時間がなくて断念。1時間半くらいで終わるかと思っていたら休憩入れて2時間半だったので(高コスパ)!
客層
開催場所が横浜なせいか、外国人の方の姿もちらほら。そのためなのかアナウンスがとっつきやすいというか、いわゆる「やさしい日本語」寄りでした。
なんと驚くべきことに、4歳~高校生はチケット1000円だったんですよ!!!!衝撃の安さ!!!とはいえ、そこまで小さな子は見なかったです。見た感じ小さくても10歳くらい…?私も5歳の長男を連れていくか迷ったのですが、読み聞かせるには「星の王子さま」は長いので、自分で読めるくらいの年齢にならないと観に来ないのかしら?ちなみに私が買おうとした時には既にこどもチケットは売り切れでした。
結果としては、子どもは連れてこなくてよかったかな。わりと「THEコンテンポラリーダンス」で、笑えるシーンもいくつかあったけど「NINJA」ほど砕けていなくて対象年齢は前回より高めに感じました。
有名な「星の王子さま」なので、どうやら普段ダンスを観ない人たちにも扉が開かれていたようです。デートで訪れたらしいカップルが「ダンス全然わかんないけど来てみた」という文脈で「何を表現してるのか考えながら見てたけど難しい」と話す声が聞こえました。私はダンスを観ることに慣れてしまったけど、身体表現を素直に受け止めることが難しい時代かもしれませんね。スマホや道具が介在しないで純粋に身体で向き合うのって、現代ではあまり機会がないですもんね。「生の舞台」くらいしかパッと思いつかない。
「言葉」を「ダンス」で表現すること
「かんじんなことは目に見えない」など、原作には素敵な言葉がたくさん出てきます。そういう、表現がむずかしいことを単純にマイムでやったりしないのが誠実だと思います。
内藤濯(あろう)さんの翻訳しか読んだことがないのですが、原作の言葉の印象が鮮烈すぎて…ダンス作品として同じタイトルをつけるなら、もう少し何かが欲しいような気がしました。何がと言われても答えられないけど。もしくは、受け取る側(わたし)の器量が足りなかったかな。
これが一つの舞台芸術としての答えだとは思うけど、原作を直前に予習したために物足りなく感じたのかな…星の王子さまを言葉以外で表現するのは本当に難しいと思います。登場人物が語る言葉や、王子さまが感じたこと、飛行士が考えること、全部が大事なメッセージなんだもの。
そういう大変難しいことに現在の森山開次さんが挑戦して、衣裳や舞台美術や音楽、照明の力も使いながら一つの素晴らしいダンス作品にまとめ上げたことに拍手!何年かして私の受け取る力が成長したところで、また違った形で作品にして上演してくれたらいいなと思います。芸術に向き合う、よき時間を過ごせました。




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