世田谷文学館で開催中の展覧会へ行ってきました!最初に言っておくと、眼福オブ眼福であった…。紙とペンだけでこんなに美しいものが生み出せるのかという衝撃。アナログで描く漫画家は減っているかもしれないけど、原画というのは本当に宝物!
精巧なペンづかいで描かれた緻密なる世界―― 同時期にデビューし、同じ雑誌で連載を重ね、ともに成長してきた漫画家・森薫と入江亜季。アナログの手描きにこだわりつづける二人が生みだす絵は、極めて繊細な線で描かれながら、ペン先の力強い息づかいを見る者に伝えます。 ビクトリア時代の身分を越えた恋物語を描いた『エマ』、細部まで描きこまれた中央アジアの風物と美しい花嫁たちが登場する『乙嫁語り』。キラキラと輝く魔法と少女の成長を描いた『乱と灰色の世界』、アイスランドの大自然のなかで消えた弟の行方を探る『北北西に曇と往け』。 美しい線画と華麗なコマ割りやセリフが織りなす綾はドラマティックでファンタスティックな物語へと読者を誘います。 本展では、原画とともに、同人誌時代の作品やイラストレーション作品、机周りや創作メモ、取材の様子など執筆の現場も紹介。物語の世界はもちろん、一枚の原稿がうまれる過程までご紹介します。漫画家と、その漫画がもつ情熱をぜひ体感してください。
世田谷文学館|漫画家・森薫と入江亜季 展 ―ペン先が描く緻密なる世界―Manga artists MORI KAORU and IRIE AKI Exhibition -The World of Intricate Paintings Created with Pen-
原画ももちろん、展示物に添えられたコメントが素晴らしすぎて…すべて撮影自由だったので抜粋してご紹介。
「エマ」「乙嫁語り」の森薫先生

登場人物の顔がほとんど同じだったり主人公の顔のつくりが毎回同じ…という漫画家もいる中で、このキャンバスを一目見るだけでもキャラクターの描き分けの多彩さがわかる。そして動植物の描き方の素晴らしさまでも。
何より、「描く」ことの喜びが伝わってくる描きこみ度合い!
学生の時に出していたという同人誌やその原稿もたくさん展示があった。同人誌時代を知らないファンには嬉しい。


ストーリー漫画だけでなく、制服がメイドっぽいお店の情報本まで出していたらしい。こんなにメイド好きだったんだ…と、あらためて衝撃。「エマ」のあとがきを読んでいるとメイドへの情熱が伝わってくるが、同人誌を出していた時からこの熱量!ちなみに左側の表紙の背景はおばあさまからの着物の柄を模写したそう。素敵。
展示の合間に挟まれるご本人のコメントも大変読みごたえがあった。自分のことがよく見えていて、しかも愛があふれる努力家だということが伝わってきた。引き続き応援せずにはいられない。
ただメイドメイドとつぶやいているやたら熱量が高いだけのオタクだったので、
連載漫画としてのお話作りもコマ割りも、基本的な漫画文法も何もわかっていません。
何度打ち合わせを重ねても、ただ断片的な素敵メイドさんのときめきシーンが
積みあがっていくばかりです。よく編集者が投げ出さなかったものだと思います。その後、編集者と私のどちらかが言い出したかわかりませんが、
「エマ」(森薫)
面白いお話を考えるのはあきらめて演出にのみ振り切ろうということになりました。

え、言われてみたら「エマ」って超王道の身分差恋愛物語だけど、これを読むまで王道だって気づかなかった…。笑 というのは、これまで読んできたどの漫画とも違ったアプローチ(森先生の言う「演出に振り切った」ということなのか)で描かれている物語だから、すごく鮮烈な印象を受けながら読み進めた記憶があるのである。王道というのはつまり使い古された物語の筋ということではあるけれども、表現方法次第で新鮮なものが描けるというのは、表現者を目指す人には大いなる福音じゃないだろうか。
それから心に残ったのは「見直して恥ずかしいということは、手先ではなく心から描いたということ(キスシーンについて)」だとか、こんなとんでもない画力なのに「『乙嫁語り』の2,3巻あたりで画力の伸び止まりを感じて基礎が足りていないのが問題だと思い、クロッキーを始めた」だとか、なんだか漫画家を目指していなくてもその向上心に励まされた。短編についての情熱ほとばしるコメント↓も大好き。
ただ「これが描きたい!」というドーパミンだかエンドルフィンだかわかりませんが、
読切(森薫)
そうした脳内の発火作用をそのまま紙に写し取る作業です。
私にとっての短編は、よくできているとかできていないとか、
コマ割りがいいとか悪いとかの技術的なこと以前に、
「メイド!」「バニー!」と思って描いたものが、読んだ人の心に
「メイド!」「バニー!」と響いてくれればそれで役割は果たした、と思えるものです。
個人的に嬉しかったのは、「乙嫁語り」で好きなシーンのラフを見られたこと。
イギリス人、スミスのボディーガード&道案内をしてくれていたアリ。別れ際に改めてスミスに名前(ヘンリー)を聞いて「子供ができたらヘンリって名前をつけるよ」と言うところです。「こんなに一緒にいたのに名前覚えてなかったんかーい」という感じでスミスが名字を告げて、それから下の名前を聞かれた時の顔。アリが「俺が結婚できるのはあんたの謝礼のおかげ。恩人の名前は子供に当然名づけるっしょ」みたいにサラリとしているのも最高なのよねー(*´▽`*)森先生の漫画には多様な愛情の表現があって、読むたびに人生というものが愛おしくなってしまう…。

「乙嫁語り」好きな方はわかるでしょうが、私物の布とか毛皮の現物展示も大変よかった!

「乱と灰色の世界」「北北西に曇と往け」の入江亜季先生
まずドギモを抜かれたのが植物のイラスト。

絵画としてちゃんと入江先生の植物を鑑賞したことなかったけど、これまたとんでもない画力である。それでいで漫画自体も面白いんだからすごいよね…!
そんな中、いいなあと思ったのがこちら。


熨斗にイラスト!これは下手したら贈り物自体よりも嬉しいよね。封筒に謝罪のイラストがあったり、原稿の枠外に後ろ姿のラクガキがあったり。かわいい!
感想ハガキのイラスト(描きおろし)についている印刷に関する指示コメントも人柄が感じられて素敵だった。
入江先生の「乱と灰色の世界」は完結しています。↓「群青学舎」も読んでみようっと。
展示構成
作家ごとの展示と「動物」などトピックごとの展示があり、比較しながらも楽しめる構成になっていた。そこに優劣はなく、二人の作家の違った良さがしみじみと味わえる良い展示だった。「似てるけど全然ちがう」という表現がよくわかる気がした。
原稿の作りこみ方も違うようで、森先生は一発でバシッと決める一方、入江先生はわりとホワイトを多用している印象。画材の使い方や作画のアプローチもこんなに違うのね!と楽しめた。


「鬼滅の刃」の原画展ではアシスタントへの指示と思われる青い文字が細かくて驚いたが、今回は二人ともそんなに指示が多くない。週刊じゃないから…?どこまで自分でやるものなんでしょうね。
カラー原画も盛りだくさん!印刷技術が向上しているとはいっても本物の美しさには勝てないのだなぁ…と。同じく「青」が印象深い絵でも、ここまで違う。


ミュージアムショップでオリジナルグッズも販売されていた。購入は見送ったものの、入江先生の友人のキャンドル作家が作ったという北北西キャンドル3,500円が欲しくなった!凛と冷たいような氷原を感じる香りで、芯が木片なのもよい。私が見た時点で売り切れ目前だったのでもう完売したであろう…(*´▽`*)
世田谷文学館の図書室で今回の漫画たちも読めたようで時間があればおさらいしたかったが、他の用事が迫っていたので宿題にします!
二人の作家からのメッセージ
遠方だったり若すぎたり事情があって展覧会に行けない未来の漫画家もいると思う。会場には二人の漫画家から「漫画の未来と未来の漫画家へ」というメッセージが展示されていた。これは漫画家を目指す人でなくても何かを伝えたいと思って生きる人には読んでほしいと思うあたたかい言葉だったので、抜粋して紹介したい。
漫画の物量とは描いたページ数と人に見せた回数です。上手くなってから人に見せよう、と考えるとなかなか上手くなりません。
漫画の未来と未来の漫画家へ(森薫)
できるだけ優しい、あまり否定的なことを言われない環境で、沢山見てもらうことが必要です。
(中略)
いかに気分よく調子に乗れるかが大事です。もっと描こう、もっと描きたい、という気持ちを大事にできる環境をなんとか見つけてください。
あなたが描いた漫画を読むことを楽しみにしています。
世間の評価を気にしすぎる人もいます。他者のことはとりあえず横に置いてください。
さすがに捨てるのも違います。まず、自分が何を描きたいのかを決めてください。
主導権を客に与えてはだめです、顔もわからない“みんな”の喜びそうなものなんて、まぼろしです。
何を描きたいのか?
とりあえず最近あなたが感動したことでいいと思います。それを表現するのが漫画です。
自分の絵がわからないという方がいます。何を切るか決まっていないなら、包丁も選べないではないですか。
何を描きたいのかを決めてください。
そのための道具が、絵であり漫画の美術です。伝わればいいのです。漫画家でなくてもいいのです、やりたいからやる。
漫画の未来と未来の漫画家へ(入江亜季)
そうしてやっと人の人生が始まると思っています。
物語を考える時や絵を描く時に使っている参考資料も展示されていた。描くことを志す人の参考になりそう。

森薫先生が紹介していた本↓は私も今読んでいる(好きすぎでしょ)。面白い!
森薫先生、入江亜季先生のこと、そしてその漫画をもっともっと好きになる内容だった。大満足。連載中の作品の続きも楽しみにしています!!
周辺情報「サン・マロー」
世田谷文学館には「喫茶どんぐり」があるものの、昼過ぎで満席&待っている余裕がなかったため入ることを諦め昼食を求めて外へ。ちなみにどんぐりさんではパスタ、ピラフ800円、トーストセット650円、コーヒー紅茶280円などメニューはリーズナブルな様子。

京王線の芦花公園駅へ向かう途中で気になる看板が…。純喫茶にも見えるけど、小規模なレストランらしい。単価は少々高そうだけど急いでいるし、えーい入ってしまえ!(外観写真撮り忘れました)

芦花公園駅から徒歩2分の「サン・マロー」という洋食屋さん。うれしい全面禁煙で、看板メニューはビーフシチューらしい。牛肉を使ったメニューがほとんど。支払いは現金のみ、飲み物のみは不可(食事必須)でメニューを一通り見ると一人前2,500円くらいが中心の価格帯。高級だわね…!
写真がおいしそうだったので牛肉を炒めたもの(料理名失念)のセットに。

すぐにスープが出てきて、しばらく待つとメイン&ごはんとお新香がやってきた。
サラダの上に炒めた牛肉がのっているのだが、サラダにコールスロードレッシングがかかり更に牛には和風ソースがしっかり絡んでいる。お肉やわらかー!うまー!甘辛でごはんが進むのでごはんのおかわりが欲しいところ。うーん黒胡椒がきいていて大変おいしい。一見値段が高くてひるむけど、このボリュームと内容ならまあ納得。スープも深みがあって素敵なお味である。
メイン料理とスープが結構濃い味だからかお新香はあっさり。下に敷いてある野菜はレタス、キャベツ、ニンジン、紫キャベツ…と、色とりどり。
物悲しいギターの音色と店内の雰囲気が合っている。三組で満席になる店内で、四人がけ席は相席になることもあるみたい。満席になると入口に満席プレートがかかるので、入れたらラッキー!



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