よしながふみ先生の「大奥」。原作漫画のほか、映画化ドラマ化もされているのでご存じの方も多いかと思います。むしろこれが世に出てから、大奥は男女逆転が常識…みたいになってきた感もあります。
これ本当にあった話?と思ってしまうくらい深い考察のもと作られた話だと思います。事実でも史実に残らなければわからないもんね。これが実話じゃないなんて、誰も言い切れないわけです。
史実は史実であってもその背景でその人物が何を考えてそういう結論を出したのか、どうしてその結果になったのかは後から史料を基に考えるしかありません。もうその人がいない時点で。だからあちらの新選組関係の漫画では賢くて実力がある!と描かれていたあの人はこちらの幕末系漫画では人心がわからない愚か者…というふうに描かれていたりします。
そういうところに歴史の面白さを見出すという体験ができた初めての漫画かも。
さて面白さはお墨付きでもちろんオススメなのですが、読むのが大変な漫画ではあります。全19巻(完結)という長さは手を出しにくいこともあるし、顔の描き分けもされてはいるもののよしながふみ先生ならではのすっきりした線の描き方もあって「あれこれ誰だっけ?何の人?」となることしばしば。「あ…あのお方とそっくり瓜二つ!」という設定もあり、だいぶ頭を使いました。夜中にしか漫画を読む時間がとれず、寝ぼけて読んでいた私の事情もありますが…(*´▽`*)
それでも深い物語。読了して思うのは人の上に立つ人の器について、そして政治についてでした。
人間の器とは?
政治的な思惑から、徳川家茂(女性)に天皇方から和宮(男性)を嫁がせる…はずが、その姉↑が替え玉として嫁いできた!どうなるの!?というところから家茂が真心をもって彼女に接し、同性愛とも違うけれども唯一のパートナーとして信頼しあうようになる絆の描き方はさすがです。キャラクターが本当に魅力的。
若い男子を死に至らしめる疫病「赤面疱瘡(あかづらほうそう)」をなくす予防接種のために国庫を使い果たして「後の世になったら私の放蕩が原因で幕府が力を失くしたといわれるだろうけどそれでいい」という将軍と、自らの見栄や評判のためだけに国家を転覆させても構わないという将軍の対比の鮮やかさ(巻が離れてはいるものの)。どちらが上に立つべき人間なのかは自明と思えます。
女の政治は「恥」なのか?
物語の終盤ですが、日本侵略を狙う欧米列強に対して、女が中心となって政治をしてきたことを恥とする西郷隆盛。国や民を守るために女将軍は存在しなかったこととなって物語は終わります。
しかし令和の日本は男性中心の政治ですが、その政治が成功しているかどうか…老後の不安、止まらない少子化。経済も強いとはいえません。世の中を暮らしやすくすることが政治なら、世の中にいる男女が1:1なのに政治に関わる男女が1:1じゃないのはおかしいんじゃないか?と考える契機になればいいと思います。赤面疱瘡がなくたってね。
男だけが政治に関わるのは歪んでいると思うし、女だけが政治をするのも同じく歪んでいる…偏りが生まれる政治の仕組みを見直す時期は既に来ているように思います。
漫画という娯楽ではありますが、ドラマ化されて一時の流行として消費されて終わるのではなく、受け止めたものをしっかり見つめてそこから深く考えることができたらいいですよね。
ちなみに…恋物語としての「大奥」
恋物語としては徳川綱吉が一番胸が熱かったです。誰からも愚かだと、死ねと思われている女将軍が自害しようとしたところに右衛門佐(えもんのすけ)が「嫌や!私の一世一代の夢やったもう放さへん!好きや…!!」と初めて出た関西弁。それから一夜を共にするところなど、もう…本当に言葉を失うほど美しいと思いませんか。ただ溜息。そのあとの展開も圧巻です。
このセリフを正確に書こうと読み返したらもうそこから熟読を始めてしまう面白さですよ。何回でも読みたい名作です。


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